2021.03.26
月刊コマ送り23「イントロ」
高校生だったか大学生だったか、それともその隙間をただよっていた時期だったかに、夜のラジオでよく流れる曲があった。
ラジオを聞くのは今も好きだけれど、今もその当時もしっかり内容を把握するというよりは聞き流していることのほうが多くて、人の声も最新のミュージックも流れる音の一部だったんだと思う。自分を絡め取られることなく通り過ぎていく人の声は耳に心地良い。にぎやかでキラキラした箱に耳を傾ける自分も1Rの小さな箱の中にいて、そんな箱がいくつも入っているやっぱり小さな箱に隣り合わせで知らない人間たちが暮らしていて、人は箱と箱の間を日々いったりきたりしている。
そんなこんなで、そのよく覚えていない10代の最後の方の時期に夜な夜なラジオを聞いていて、ふとあるフレーズが耳に引っかかっていることに気がついた。
それはとある曲のイントロのほんのワンフレーズで、その時期よく流れていたものだった。もちろんイントロだから、そのフレーズは一瞬で通り過ぎて、歌がはじまって、しばらくするとフェードアウトしながらパーソナリティーによって簡単に紹介される。そしてまた箱の中がにぎやかなだけの静かな夜に戻る。そのフレーズだけずっと聞いていたいと思っても、音は流れて消えていくものだからずっと掴み取れずに通り過ぎていく。
そんな夜が繰り返されて、あるときとうとうその曲が流れなくなった。当たり前だ。世の中ではなんでもかんでもどんどん新しいものが生み出されているわけだし、ラジオは情報を伝えるメディアだし、いつまでも同じ曲を流し続けるわけにはいかないのだ。
それから少しして、タワレコでもう平積みではなくなったそのCDを買った。