2026.01.23
観劇せん?・・・「福岡市民劇場」のことが知りたい!

みなさん、「市民劇場」をご存知ですか?
ご存知ない方は劇場の名前だと思ったでしょう? それが違うんです。“自分たちで会費を持ち寄り 自分たちで運営する市民劇場”というように、入会金と月会費を納め、年に6回、「例会」として新劇にルーツを持つ劇団(文学座や青年座、劇団民藝など)の公演を観る。観るだけじゃなくて運営も行う、というのが主な活動です。1949年に立ち上がった「大阪勤労者演劇協会(大阪労演)」を皮切りに全国に広がったこの観劇システムは、今も日本各地で楽しまれています。
演劇好きでも知らない人も多いこのシステム。私もなんとなく「会費を納めて観劇する」ということしか知りませんでした。そこで、福岡市天神に事務所を構える「福岡市民劇場」の事務局長・依田芳子さんに、あれこれ聞いてみました。

▲福岡市民劇場の事務局長・依田芳子さん
◆ここは、芝居好きの集まる場所
――「市民劇場」というのは、そもそもどういうものですか?
もともとはね、(演劇のジャンルとして)「新劇」というものがあって。それは土方与志さん(1898~1959年/演出家)と小山内薫さん(1881~1928年/劇作家)が作られたものなんですね。それまでの演劇って歌舞伎とか新派ばかりで、庶民が観るものはほぼなかった。そこで土方さんと小山内さんが「演劇のため」「未来のため」「民衆のため」という理念を掲げて、「商業主義に委ねずに、自分たちのやりたい・やらなきゃいけない芝居をしたい」と、築地小劇場(新劇の常設劇場)をつくりました。だから“新”劇というのは、歌舞伎などを“旧”劇としての対比。だけどその流れを汲んだ劇団は東京にいるので、地方ではなかなか観られないわけです。
――「商業主義に委ねずに」というところがありますからね。
そう。商業演劇は後援がつくから地方にも運べるんだけど、新劇の団体は自分たちで地方に持って行かなきゃいけないからなかなか行けない。「でも観たい」という私たちの欲求と、新劇のみなさんの「全国津々浦に芝居を届けたい」という思いが一致して、この活動に繋がっています。
――「市民劇場」は全国にある団体なんですよね。
そうです。昔は「労演(勤労者演劇協会)」と言われてたんですよ。戦後すぐの頃は、労働組合の文化部みたいなところが主に動いていたから。でも労働者だけじゃなくてみんなが観られるようにしたいよねということで、福岡では1974年に「福岡労演」から「福岡市民劇場」に名称変更しました。
――福岡でも「福岡市民劇場」「北九州市民劇場」「飯塚市民劇場」などありますが、九州全体だと市民劇場はいくつくらいあるんですか?
九州は全部で18団体あります。
――けっこうたくさんありますね。福岡市民劇場だと会員は何人ぐらいですか?
今は2900人くらい。コロナ前は5000人くらいいたんだけどね。入会したい人は3人以上でひとつの「サークル」を作って、そのサークルで市民劇場に入るというカタチを取っています。
――3人以上なんですね。
そう。3人だったら会話ができるから、っていうのが考え方です。でも今は、サークルを作って入らなくても既存のサークルに追加で入ることもできますよ。
――サークルを作るのはなぜですか?
運営とかいろいろやることがあるんだけど、それが全部サークル単位なんですよ。
――なるほど。市民劇場は、普通のお芝居みたいにチケットを買って公演を観劇するのではなくて、会員の方が毎月会費を納めて、運営もしながら、年に6回「例会」として観劇されるんですよね?
そうです。事務局は私含め2人だけで、あとの運営はみんなでします。それがめんどくさいって人もいるけど、舞台装置の搬出搬入とかね、そういう裏方にも関われるからおもしろいって人もいる。サークルと言っても、全員が必ず運営に関わらないといけないわけじゃなくて、今回はサークル内で2人だけ関わるとかも自由です。

▲福岡市民劇場の事務所。出入り自由で資料もいっぱいです
――「今回はこのサークルがこの役割をする」と割り振っていくような感じですか?
そう。それも自分たちで決めるんだけどね。例会の2か月前から集まって、色んな会議をしたり、座席のシールを作ったりね。今時そんなの古いとか言われるけど、アナログだからみんなが集まってできると思ってるの。コンピューターでやっちゃえば簡単ですよ。でも人が集まるから生まれるものがあるじゃない。そういうものを大切にしたいなっていうのが私たちの考えなんです。
――そこで仲間もできますね。
そうです。年齢も幅広いですよ。今ちょっと若い人が少ないのが残念なんだけど、いろんな職業や立場の人が集まる。これはすごいことだなと私も思います。でも、そういうのが不安だって人には「とにかく入って芝居を観てよ」と言います。最初からなんでもかんでもやってもらうより、まずはどういう芝居を観ているかっていうのを知ってもらうのが一番かなと思っています。
――演劇を観るっていうのが第一ですもんね。でもこうして取材している間も、事務所はいろんな方が来られますね。
今はみんな「集まる場所がない」って言うのよ。だから私はこの場所があるというのも魅力なんじゃないかなと思う。ここに集まった時にいろんなことを話し合える。政治とか思想とかも含めいろんな人がいるんだけれども、「芝居を観る」という点では共通しているからね。今そういうふうに喋れることってあんまりないでしょう?
――演劇を観ると政治の話とかもしたくなりますよね。
そう、そうそう。そうなの!
――観劇好きは、そういう話をする時の距離の取り方がうまい人が多いと思います。
いろんな考え方の人がいて意見が違っても、「否定はしないけど私はこう思うよ」っていう話ができるじゃない。それがいいと思うんですよね。政治の話だけじゃなくて、介護が大変とかね、色んなことを話してますよ。
――年齢層はどのぐらいが多いんですか。
圧倒的に70歳以上。私は高校演劇をやってたから、高校卒業してすぐ入ったんだけど。
――え、それから今までですか!
そう(笑)。だから60年はいるよ。事務局に入って30年。とにかく芝居が好きだったから入ったんだけど、いまの若い人は欲求が違う方に向いてるね。それをこっちに向けるっていうのはなかなか難しい。学校も今は演劇教室みたいなことはほとんどしないみたいだしね。劇団も学校公演がなかなか決まらないって言ってました。
――その一方で70歳以上の方々が、福岡市だけで何千人も市民劇場に加入して、お芝居を観ているというのは素敵なことのように思います。
いつからでも始められるからね。80代の人が市民劇場で初めて芝居を知ったとするじゃない。そこから何年観れるかわかりませんよ。でもその間、芝居を観て楽しんだら、その人の人生は豊かになるんじゃないかなって思う。それと同じで、若い人たちも自分が「必要」と思った時に入ってくるんじゃないかなって思ってるんだけど、それは甘いって言われています(笑)。
――中高生は入会金1,000円、会費は毎月1,100円で入れますよね。
そう。だからおばあちゃんが孫へお小遣い代わりに払って、「一緒に舞台観よう」って言ってる方もいらっしゃるよ。
――それは素敵ですね。大人の方はどうやって入会してこられるんですか?
ほとんど口コミ。だから「市民劇場」の存在を知らない人も多いと思う。
――ホームページもかなりシンプルですもんね。
ホームページも前は出してなかったんですよ。でも「今時ホームページがない団体とか信じられん」て言われたから作りました(笑)。
◆だって芝居には「刺激」と「新しい発見」がいっぱいあるんですよ
――例会で鑑賞する作品はどんなふうに決めているのですか?
まず九州18団体……「九演連」って言うんだけど、その九演連の事務局長たちが集まって、会員のみなさんに提案する演目を出し合います。私も東京にお芝居を観に行ったりして情報を集めていますけど、それを各地の事務局長がするから、いいと思う作品の情報が集まるんですね。その後は、同じような演目が並ばないようにとか、例えば8月は戦争にまつわる話にしたいとか、みなさんが大好きなミュージカルもとか、いろんな劇団の作品が観られるようにとか、そういうことを考えて選んでいきます。時には劇団と交渉したりもするんですよ。
――へえ!
2024年に文学座が『オセロー』をやったでしょ? それを観た九演連仲間が「素晴らしかった!」って言うから観に行ったら「これは早くやらないかん」となってね。文学座と話をして、2027年2月の例会でやるっていう風に決まりました。それ以外にも、劇団それぞれにも「これは九州で観てほしい」って作品があったりするから、そういう話も聞いたりして総合的に判断しています。
――会員のみなさんはそこにどう関わるのですか?
候補作品のあらすじや劇評を載せた一覧表を作って、会員のみなさんに「これでどうですか?」と提案します。そこでひっくり返るようなことがなければ、最終的な調整にうつっていくという流れです。昔は最初にアンケートを取ったりもしてたんだけど、そうするとどうしても有名な人が出る作品が一番くるんです。作品が良かろうが悪かろうがね。地味な作品はどうしても弾かれるし、それはおかしいよねってことになって。90年代ぐらいかな、こういうことをやり始めました。結局好みはありますよ。だけども評価が高い作品を選んでいるので、みなさんの評判はいいですね。
――九州の18団体はそれぞれ違うラインナップになることもあるのですか?
いえ、基本的に九演連で統一レパートリーにしています。昔は違うこともあったんですけど、そうすると規模の小さい市民劇場は劇団へのギャラが払えなくなったりする。それで考えて、九州で統一レパートリーにしよう、と。劇団には1回の上演に対して600名の観客は保証しますということを決めて、会員の人数分のお金を上演料としてお支払いするというやり方です。
――じゃあ600名より多い時はプラスするんですか?
そうです。追加上演料としてお渡しします。私たちは、「会員を増やして上演料を増やそう」という運動をしているからね。増えたぶん劇団にお渡しできると、名誉っていうか嬉しいんですよね。だから今一生懸命、会員を増やせるようにがんばっています。
――「商業主義を排している」と聞くとストイックだったりアングラな感じがしますが、鑑賞会で観られる劇団に所属する俳優さんは、商業演劇でも活躍されていますよね。私もよく拝見しています。
そうですよ。みなさんお芝居が素晴らしいですから。(杉村春子賞で知られる)杉村春子さんも、(劇団民藝を創設した)宇野重吉さんも、築地小劇場の頃から生きて芝居をやった人です。昨年、仲代達矢さんがお亡くなりになりましたけど、仲代さんは最後の新劇の世代と言われていた方でもあります。そういう世代はほぼあちらにいかれたけれど、今の人たちは人たちですごくがんばっておられる。新しい作品もつくるし、劇団の演目も再演させるし。例えば『華岡青洲の妻』は、私も昨年の例会で3度目だったんですけど、演出を手がけられた鵜山仁さんの新しい解釈が入っていて、私たちがより身近に感じる『華岡青洲の妻』でした。そんなふうにして、同じ演目でも、時代に媚びるわけじゃなくて、原作を曲げるわけじゃなくて、「今だったらこういう考え方かな」と思えるものが観られる。
――依田さんご自身は福岡市民劇場で60年も観劇を続けてこられて、どんな魅力を感じられていますか?
私ね、思うんよ。この市民劇場がなかったらしょうもない人生だったかもしれんと。だって芝居には「刺激」と「新しい発見」がいっぱいあるんですよ。知的好奇心を刺激されて観劇後にいろいろ調べたりするし。だからこの2ヶ月に1回の例会がいつもすごく楽しみでした。ちょっと極端だけど、それがないと耐えられんかったかもしれんと思う。それぐらいね、私は待ち遠しかったし、いろんな芝居を観るのがものすごい楽しかった。うん、いろんなことを教えてもらいました。
――何十年経っても楽しいですか。
マンネリってないもんね、芝居って。前に観たものでも年齢を重ねると「あの時わからなかったのはこういうことだったのか」という発見もできたりする。そういうのも嬉しいんですよね。さっきの『華岡青洲の妻』みたいに演出家によって作品が変わるっていう楽しみもあるし。あとやっぱり観劇仲間はね、それこそ年上の方も年下の方もいらっしゃるけど、やっぱ芝居を介すと損得関係っていうの? それがなくなる。いや、ないことはないっちゃろうけど、忖度しなくていいっていうのがね、やっぱりすごいなと思いますね。「あなたは人生の先輩やけど、私は芝居の先輩やけん」とか言ったりしてね(笑)。冗談の話ができたりする。そういうのは普通のところではちょっとないかなと思うよね。私はいい会だと思います。

▲事務所の様子。いろんな方が来られてはお喋りをして帰っていかれます
――私もサークル3人集めて入ります。
ぜひぜひそうしてください(笑)。若い人に入ってほしい!
(取材・文・撮影 中川實穗)
問い合わせ先:福岡市民劇場 https://f-shimingekijo.com/