2026.01.17
観劇せん?・・・バストリオ今野裕一郎さんと演奏の松本一哉さんが語る『黒と白と幽霊たち』

バストリオ+松本一哉『黒と白と幽霊たち』が1月23日から25日まで、なみきスクエア 大練習室にて上演されます。
本作は、以前ここで紹介した「キビるフェス」の参加作品でもあります。(▶キビるフェスの『黒と白と幽霊たち』ページ )
『黒と白と幽霊たち』は、東京を拠点に活動するバストリオの代表的なパフォーマンス作品。音楽家・松本一哉さんの生演奏、躍動感溢れるパフォーマーの身体、光と影、とさまざまな要素によって空間を揺り動かし、“ここ”と“どこか遠く”へと観客の思いと想像を掻き立てる、という作品です。

▲『黒と白と幽霊たち』公演より
ん?それってどんな作品?と思った私は、作・演出・出演の今野裕一郎さんと演奏の松本一哉さんにオンラインでお話をうかがいました。ぜひ読んでみてください!
◆『黒と白と幽霊たち』が生まれた時のこと
――まずは『黒と白と幽霊たち』という作品についてからお話をうかがっていきたいのですが、2016年に東京の宗林寺で初演して以来、これまで15都道府県・44回におよぶ公演を行ってこられた作品です。本作が生まれた経緯からお聞かせください。
今野 東京の谷中に「宗林寺」というお寺があるのですが、そこで音楽のイベントを開催する際に声をかけられたのがきっかけです。ちょうどその頃、僕は松本さんのライブツアー最終日の公演を観て、とても記憶に残っていました。それで「じゃあ一回、松本さんと作品を少人数でつくりたいな」と思い、この『黒と白と幽霊たち』が生まれました。

▲作・演出・出演の今野裕一郎さん
――松本さんはどう関わっていかれたのですか?
松本 誘ってもらった時点ではなんだかよくわかっていなかったんですけど、稽古場に行ったら「今から松本さんにライブをやってもらいます」って言われて(笑)。知ってる人たちの中でライブするっていうまあまあのプレッシャーから……
今野 (笑)。僕が観たライブの演奏をもとにして(『黒と白と幽霊たち』を)つくっていくと思ったから、僕以外の出演者にもライブを観てもらうのが早いだろうってことでお願いしたんですよ。
――ライブの演奏をもとにして、どんな風につくっていかれたのですか?
松本 たしか僕のライブの流れの中にシーンを入れていく、みたいな感じでしたよね。
今野 そうですね。最初にライブを観た時、松本さんの音を聴いていると自分が考えていたり感じていたこと、いろんなイメージみたいなものが出てくるような感じがして。「じゃあ、あれをそのまま作品にしよう」と思って、そのライブの中に台詞を入れたり、シーンを足したり、音数を増やしたり、みたいな感じでつくっていったと思います。

▲演奏の松本一哉さん
――ではそのライブで今野さんが感じたものというのが、この作品で扱われている「生と死」だったのでしょうか?
今野 そうでしたね。その時はたしかシリアが空爆されている時で、そのニュースをよく目にしてたんですよね。だからどうしてもライブで出される音が痛く感じる瞬間もありましたし、絶対に届かない場所や、遠すぎるその国のこと、身近にあるどうしても触れられない別の生き物のこととか、いろんなイメージが自分の中に出てきて、それがめっちゃ繋がったんですよね。だからなのか作品もあっという間につくりました。つまりライブがめっちゃ良かったんやと思います。
――松本さんは、ご自身のライブがベースにあって、こういう風に作品になっていくというところにはどう感じられていたのですか?
松本 僕は本当になにも考えていなくて。これは割と毎回そうなんですけど、「多分こういうことを求められているんだろうな」ということに「応えたい」みたいな気持ちしか基本はないんです。僕は今野くんほど世界のこととかを考えてはいないと思うから、「この人がなにをやろうとしているんだろう」ということを僕なりに受け止めて、「多分こういう音感(おとかん)がいいんだろうな」とか「いま多分こういう音質を求めてるんだろうな」みたいな。
――それは公演中に感じるのですか?
松本 公演中だったり普段何気なく発する言葉だったりから常々感じようとする、という感じです。だから「なんでそうしたのか」も後からは言語化できるんですけど、その瞬間はあまりわかっていません。鳴らしてみてから、みたいな感じ。
今野 役者も含め、「(パフォーマンス中に)こういうことが起きた、こう感じた」みたいなことは結構話すんですけど、それは稽古というよりは本番中のことなんですよね。なにせお客さんが毎回違うし場所も違う。だから稽古以上に本番でつくっていってる、みたいな感覚はめっちゃあります。
――本作で松本さんは即興的な演奏をされますが、チラシには「生演奏によって生み出される即興的かつ緻密な音楽」と書かれています。それを読んで、私は「即興」と「緻密」を両立するってどういうことなんだろうと思ったんですよ。どんな準備をしていれば、そういうことが可能なのかな、と。即興になればなるほど粒が大きくなるんじゃないかと思っているので。
松本 種明かしみたいな話になるのでちょっとだけ恥ずかしいんですけど、僕はちょっと即興ってあり得ないって思ってるんですよ。稽古もですが、「本番をどれだけやったか」みたいなところで、自分の中に“引き出し”というか、“どれぐらい反応できる領域を広げていくか”みたいなことができてくる。普段の生活の中でも「この人とこう関わったな」「こういう話をしたな」みたいなのがちょっとずつ自分の中に積み重なって、なにか別のことが起きた時にそことリンクする、みたいなことがあると思うんですけど、音もそうで。「あの時やったあの音量バランスで、あの音色で、いま鳴らしたらハマるかもしれない」みたいなことを考える前に体が反応する、ということがある。なので「即興」と言っても、結局準備し続けているみたいな感じです。そういう意味で、完全に0からいきなりポンって生み出すっことは、正直あり得ないかなとは思ってますね。「ストックしといたらいつか出せる」みたいなものを無数に集めている、みたいな感覚だと思います。

▲『白と黒と幽霊たち』公演より
――ちなみに役者のパフォーマンスは今野さんがつけたものですか?
今野 いえ、「基本的にはこうしてほしい」はあるけど任せてる部分もあって、それがしっくりきたら嬉しいな、みたいな感じですね。最初につくった時には多分、「こう動いてほしい」「こういう流れがあってほしい」みたいなことを絵や図みたいなもので書いたと思うんですけど。
◆10年上演し続けて、変化していること
――同じ作品を10年上演し続けて、変化している部分はありますか?
今野 変わってるんでしょうね。でも、どう変わっていったかの変遷はわかんないです。人の変遷、場所の変遷はあるんですけど、作品としてはその時やれる『黒と白と幽霊たち』をやる、みたいな感じでずっとやってきています。
松本 そういう意味では多分一番変わってないのは僕なんじゃないかとちょっと思っています。はずしちゃいけないというか、いや、それはみんなそうだと思うんですけど、例えば毎回お客さんが違うとか、距離感が違うとか、今回の会場は狭くてあまり動けないとか、そういう点でその都度細かく変えているんですけど、「大元は変えちゃいけない」みたいなところが僕の意識の中にはあります。なんか「土台」っていう意識みたいな。あまりやりすぎるとテキスト(脚本)の意味合いが変わっちゃったりもすると思うし、そこを尊重してやらなきゃいけないみたいな意識があります。
――よかったら同席してくださっている橋本さん(橋本和加子さん/バストリオ/本作出演者)にもこの作品の変化についてうかがってもいいですか?
橋本 私はバストリオの作品の中で唯一、この作品のクリエイションにだけ参加していないんです。初演の次の公演から参加したので、その時は「出来上がった作品に一人で入っていく」という感じで。他の(初演も参加した)みんなとは体感とか共有してるものが全然違うな、というところから始まりました。ただそこからたくさんの公演を重ねていく中で、「場所の記憶」の強さを感じています。「場所の記憶」というのは、空間そのものもそうなんですけど、そこで関わった人たち、観に来てくれた人たち、公演を手伝ってくれた人たちと一緒にこの作品が私の中で残っていっているというか。「ここではこういう人と会って、こういうやり取りがあって、あの人が客席で見てくれたことが自分の中にこう作用した」みたいなことがめちゃめちゃあるんですね。なので、「この作品のやっていること」っていうのはまず一本あるんですけど、そこにそういういものがどんどん肉付けされていって、「ふとい足」ができてるみたいな感じなんですよ。

▲橋本和加子さん
松本 ……そういうふうに言いたかったですね。
橋本 (笑)
今野 確かに確かに。
松本 (再び)そういう風に言いたかった。
一同 (笑)
◆届くかどうかは、後からついてくるもの
――受け止め方がいろいろある作品は、もしかしたら戸惑うお客さんもいるかなと思ったりしますが、その辺りは実際どうですか?
今野 そうですよね。でも「演劇なんか全く観たことない、知らない」みたいな人がこの舞台を観に来て、観たものに普通に反応して、「おお」となっていたりするんですよ。実際にそういう人たちと出会ってきているから、「とにかく観てもらえれば」って気持ちがある。だからなんとか足を運んでほしいなとはめっちゃ思います。単純に「めっちゃいい音やな」とか「ぐっとくる言葉やな」とか「すごい綺麗な立ち姿やな」みたいな、多分そういうことの積み重ねで起きることがあるので。
――ほんとそうですね。
今野 この作品は一個の芸術のひとつの形でしかないので、僕たちはできるだけ磨き上げて(上演する)。届くかどうかは、後からついてくるものって感じがします。上演後に「めっちゃかっこいいっすね」って言いに来てくれる人とか、めちゃめちゃ嬉しいです。それで「伝わんなかった」とか思わないですし。
松本 僕は、福岡は去年の秋にツアーで行ったばかりなんですけど、その時に来てくれた人たちが「観に来ます」と言ってくれたので、その人たちに「僕一人じゃできないことがいっぱい起きるし、もっとすごいので、楽しみにしていてください」と伝えました。ぜひ足を運んでほしいし、僕らもせっかく福岡に行くので、そこからまたご縁が広がって、九州全域行けたらいいなと思います。長崎も行きたいねってずっと言ってますよね。
今野 そうなんですよね。
橋本 バストリオも九州は2017年ぶりなんです。今回、「キビるフェス」さんが呼んでくださったというのは大きい。やっぱりこういう機会がないと、なかなか自分たちの資金だけで行くには遠かったりしますから。なので今回を見逃してほしくないなっていう想いはあります。
今野 めっちゃそうです。

▲稽古場でのみなさん
――私も楽しみにして福岡で待ってます。
今野・松本・橋本 ありがとうございます!
(取材・文 中川實穗)
バストリオ+松本一哉『黒と白と幽霊たち』

作・演出・出演:今野裕一郎
演奏:松本一哉
出演:坂藤加菜、橋本和加子、菊沢将憲(声)
日程:1月23日(金)19:30-、1月24日(土)13:30-/18:30-、1月25日(日)14:30-
会場:なみきスクエア 大練習室(福岡市東区千早4-21-45)
料金:一般:3,300円、U-22:2,500円、高校生以下:500円
※「キビるフェス2026」の他のプログラムの半券または予約画面等のご提示で一般料金から300円引きあり
チケット取扱い:ローソンチケット(Lコード:84054)/予約フォームhttps://x.gd/P3EeE