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2025.10.31

観劇せん?・・・田崎小春さんと内田龍太郎さんに聞くmelomys福岡公演『ドリームタイム』

 

あやふやなものをあやふやなまま、いなくなったものをいないままに、切り取られた輪郭の再構築を試みる場として2020年に田崎小春さんが立ち上げた創作ユニット「melomys(メロミス)」(内田龍太郎、末若菜摘、田崎小春、野村玲央)。そのmelomysによる『ドリームタイム』が、11月2・3日に福岡市博多区御供所町にあるセレクト古本屋+エスノ料理+多目的スペース「マノマ」にて上演されます。

 

本作は、8月に横浜で上演され、好評を博した田崎小春さんのひとり芝居。8月の上演時は、【作 ・構成・演出:田崎小春】でしたが、今回は【作 ・構成・演出:田崎小春・melomys】となります。

 

どのような公演となるのか、稽古場にて、田崎小春さんと、melomysのメンバーである内田龍太郎さんにお話をうかがいました。

 

▲(左から)田崎小春さん、内田龍太郎さん

 

 

◆「melomysは、小春ちゃんの実感に基づいて作品が始まる」

 

――8月の横浜での公演の感想をSNSでいくつも読んで、楽しみにしていました。そこから少し時間が経ちましたが、同じものになりそうですか?

田崎 そうですね、基本的には横浜で上演した時と同じものなんですけど、福岡に来て、昨日初めて稽古をして、少しだけ……少しかしらね? 変化が起きています。最初につくった時とは時間も場所も変わっているので、変わるところはあると思うのですが、作品の核の部分は変わらないですし、構成もほとんど同じだろうなという感じです。

――変化に関してはどんなやり取りをされましたか?

 

内田 8月の公演はだいぶ私小説的でエッセイに近い構成で、小春ちゃん(田崎)が生活の中で得た実感と、そこから出てきた考えみたいなものを混ぜて喋っているという性質がとても強かったと思います。でも今回はもうちょっと自分の肉体から離れた場所から話してもいいかな、みたいな。

田崎 そうですね。「melomys」は、人間の活動によって絶滅したブランブル・ケイ・メロミスっていうねずみがいて、それを知ったのがきっかけで立ち上げた創作ユニットでもあるんですけど、もう一回改めてそこと「自分が今ここに生きていること」っていうことから作品をつくりたいなと思ってつくりました。8月の公演の時は、ブランブル・ケイ・メロミスがいなくなったきっかけとしての「気候変動」とかおっきな話って言うとあれなんですけど、そういうものを語る時に、「まずここにいる自分」――その自分は東京に住んでいる、6畳の部屋があって、お風呂があって、みたいな、その「自分」っていうところから始めることが、誠実さじゃないけど、なんか許される始まりというか。自分の中で、そこからなら語ってもいいというか。むしろそこからしか語れなかったんですね、その時の私には。だけど今回やるにあたって、龍太郎くん(内田)に相談したのは、今ここで「私」が話し始めると、もうその事実がくっついちゃって、劇と。だからもうちょっと遠く、想像の余地のあるところから始めてみたいっていう。今ならそれをやっても気持ち悪くなくできるんじゃないかなって。そこは前回とひとつ大きく違うところです。でも実際にやってみて、それが龍太郎くんからどう見えるか、それが作品にとって効果的か、というのを踏まえて、どうするかということになると思います。

内田 小春ちゃんが、「社会で生きていると、適応したコロモを着るようになるんだけど、たまにそのコロモを脱ぎたい」みたいな欲求の話もしていたから、そこにも近いのかなって気はした。

 

田崎 確かに。そうかも。

 

内田 遠くからだろうが近くからだろうが、やってること自体は小春ちゃんの「実感」に基づいたものを持っている気がしています。melomysは大体いつも小春ちゃんの実感に基づいて作品が始まるんですよ。

 

 

――作品から逸れますが、melomysはいつもどういう風に芝居をつくるんですか?

田崎 その時々なんですけど、今回の作品に関しては、それまではつくる過程でmelomysの3人に文章(脚本)を見てもらったり相談したりしていたけれども、今回、「一回ちょっと1人でやってみたい」「まず8月は1人でやってみて、それをアップデートするときに一緒にやりたい」という話をしました。だから1人で稽古場を取って、日々思ったことだったりを書いたメモを置いて、「一回このシーンについて(自分で)喋ってみよう」みたいな感じでやっていくうちにいくつかブロック(場面)ができていって、それを「このブロックの次にこれを喋ったらいいかも」という感じでつくりました。たまに、(会場となる)ワイキキSTUDIOを運営されている大谷能生さんという音楽家の方に「見てください」と言って見てもらったり。あと私は「青年団」(平田オリザ氏を中心に1982年に結成された劇団)に入っていて、その劇団の友達に見てもらって、外からどう見えてるかという言葉を聞いたり。で、また1人でやる、みたいなつくり方で。今までは台本を先に書いていたりもしたのですが、先にあまりにも言葉をきれいに整えすぎると、なんかそっちを大事にしなきゃと思っちゃって。それこそ「実感」みたいなものが抜けるなと思ったから、最初は断片的な言葉やメモをやって、やりながら、「あ、私いまこうやって喋った」みたいなことを後から書きました。

 

――では横浜での公演を経て、今回melomysでつくるんですね。

 

田崎 そうですね。今回は主に龍太郎くんに相談して。やっぱ見てくれる人の目がいないと、気づけないことがいっぱいあるから。

――龍太郎さんはこの創作の場に、いまどんなふうに感じていますか?

 

内田 僕は小春ちゃんのことをいつから知ってるんだろう。ガラパ(福岡を拠点にする劇団「万能グローブ ガラパゴスダイナモス」)にいた時から知っていたけれども、そんなに交流がないまま、小春ちゃんは東京に行って、いつのきっかけで話したんだっけ。

 

田崎 福岡でmelomys​『present』(2021年)というひとり芝居をやった時に観に来てくれて、おもしろかったと言ってくれて、当時、melomys​は1人だったから、「じゃあなんか手伝って」って感じでメンバーになってくれた。

内田 そうだった。だから創作にがっつり絡むのはここ数年の話で、今回も「小春ちゃんが帰ってくる、じゃあ演劇やるか」みたいな気持ちでやっています。この公演自体、小春ちゃんがこれからいろんなところに持っていってやれたらいいなという感じで企画がスタートしてるから、じゃあ「地元に戻ってくる」というところで、旅をしたような気持ちで戻って来て、その中で得たものをどう脚本に入れるかというような。「アーティスト・イン・レジデンス」(アーティストが一定期間ある場所に滞在して、制作活動を行うこと)みたいな感覚でやってみようと思って、そのための設計図を組むつもりでした、僕の中では。だから「外の目」とか「演出」っていうよりも、「小春ちゃんがどういうプロセスを経たら本番に持っていけるか」を考えようと思って、この稽古場に最初に来た。でも(通し稽古を)見たら、小春ちゃんがその場にいたらきっとできるやろ、みたいな。

 

田崎 いろんな場所でやりたいっていうのは、私は「(歌の)流し」に憧れがあって。かっこいいな、そういう行為が演劇でできないかと思ったんですよ。かっちり「この環境がないとできませんよ」っていう演劇じゃなくて、どんな場所でも適応しながら、その場に合わせてちょっと変わったりもしながらできる作品を、持って回ってやりたいんだっていうので、龍太郎くんにはそれを手伝ってほしいって言ったんですよね。だから、ワイキキSTUDIOでやる時は、作品としてもうちょっといびつなものというか、もっと「原型」みたいな、磨く前の石みたいなものをつくるつもりだったんですけど、意外となんか、ちゃんと作品ができた、みたいに思って(笑)。だからそれをもとに福岡のこの場でやるためにまた作品を変えていきたい、ってことをいま手伝ってもらっている感じです。

――「原型」に近づけたいのですか?

 

田崎 でもこれを壊したいっていうよりは、8月にやって、3ヶ月ぐらいの時間の中で変わった感覚だったり、つくり手として新しく持った視点だったり、あとはこの福岡っていう場所と、マノマっていう場所と、みたいなことでちょっと変化するっていう感じです。

内田 多分melomys​はメンバーそれぞれの視座が違うと思っていて、例えば僕が演劇でやりたいことと小春ちゃんがやりたいことは多分違う。その中でお互いが触手を伸ばして握手できたところでやり取りしている感じなんですね。僕自身がやりたいことは、断片的なものたちが空白の中にいて、観た人が自分の物語をそこに付属させないとストーリーにならないような、自分の記憶と混ざっちゃって個人ごとに感想が違うようなもので。今回、小春ちゃんが「(思いのほか)ちゃんとできた」っていうところで、「それならできるのはこれかもしれない」とか、「僕はこのほうが好きだな」みたいな感じの話をして。それを受け入れるかどうかは小春ちゃんに委ねられている。そういう、新しい村のルールを決める……違うな(笑)。遊牧民とか山地民が移動しながら生活する中で、自分が持ってきた稲をちょっと交換する、みたいな気持ちで、melomys​にはいつも参加しています。

 

 

 

◆「そこで生き物が生きてる、っていうことをやる」

――『ドリームタイム』というタイトルの作品は以前にも上演されたのですか?

 

田崎 そうですね、『ドリームタイム』というタイトルで最初につくったのは2021年かな。東京のアトリエ春風舎(劇場)で上演して、その時は私は作・演出という立場で、4人の俳優さんに出てもらいました。それを原型にして2022年に今度は自分ひとりで上演して。だから、『ドリームタイム』っていうタイトルでやるのは、ワイキキSTUDIOを合わせると今回で4回目なんですよね。ただ2021年につくったものは、海面の上昇でいずれなくなるという島を旅しに来た人の物語でした。今回はその部分は全然なくなっています。

 

――どうして再び『ドリームタイム』というタイトルにしたのでしょうか?

 

田崎 オーストラリアのアボリジニっていう民族の神話みたいなもので“ドリームタイム”という言葉があるんですけど、それを調べる中で「植物とは種子が見た夢である」という言葉があって、それが気に入って。時間が縦方向じゃなくて横方向にある、みたいな。自分がなにかに向かって成長していくということを目指すのとはまた違う価値観であろうその“ドリームタイム”というものに魅力を感じていて、それがなにかはわからないけど、またこのタイトルでやりたいっていうのがありました。でもそれもmelomysのグループLINEで、「さすがに毎回『ドリームタイム』だと、例えば助成金を申請する時とか事務的にめんどくさいことが出てくるかな」みたいな相談をして(笑)。日時も場所も違うから大丈夫、とやることにしたんですけど。

――では根本みたいなところは変わらず、描くものが全然変わった、みたいな感じですか?

田崎 そうです。テキストとか構成とかが違う。

――その中で今作はどういうものですか?

 

田崎 わからないですけどなんか、生きてること、みたいなのを結局はやりたいんだと思うんですよね。ってことは死についても考えるじゃないですか。だから人間が生きていることによって絶滅したネズミの種がいるってことが、今の私の中では「それってどういうこと」と思った。それで作品で……それが何かになるとかじゃ全くないんだけど、「祈り」みたいなものがやりたいと思ったんだと思います。そして「生きてる」ってことも、現実で生きていると、大人になるにつれて社会性とかが身について、「あれ、なんかいま息苦しい」みたいな。愛想笑いとかして「あれ、なんか全然いたいと思ってないのにこの場にいる」みたいなことってあるじゃないですか。そういうのを作品の中では脱いで、そこで生き物が生きてるっていうことをやる。それはここがどんな場所かとか、私にどんな名前がついてるかとか、肩書きとか関係なく、ここにただ「ある」っていうこと。もしかしたらそれは「ない」かもしれないけど、見ている中でそれが起きる、みたいなことを、言葉にしちゃうとやっぱりいろんなものがこぼれ落ちちゃうけど、すごく単純化したらそういうことなのかなと思っています。

 

――脱ぐってなかなかできないから、観てみたいなって思います。

内田 社会って着方は教えてくれるけど、脱ぎ方は教えてくれないですからね。演劇を上演する時に「いつでもトイレに行っていいですよ」と言って始めたこともあったんだけど、結局お芝居を始めてしまうと、お客さんは観たいのと他の人の邪魔になりたくないので、トイレに行ってくれる人がいない回とかもあって。それを、じゃあどういう演劇の仕方だったらトイレに行ってもらえるんだろう、とか考えたこともあったんですよ。でもそもそもトイレに行きたくないのに行ってほしいわけではないなと思って。そういうことでつくり方も変わった気がしますね。

田崎 「着て生きる」みたいなのも、それはそれでおもしろいことだなとは思うんですよ。私は脱げる状態でもありたいと思うけど、「つい着ちゃう」みたいなことも、それはそれで人が社会の中で生きてることのユニークさというか、そういう風には思っています。だからいい悪いとか、善悪とかで区別するっていうよりは、そういうものがそこにあるっていう風な目で見れたらいいなと思っています。

 



――ちなみにマノマでやりたかったのはどうしてですか?

田崎 マノマはお店としてすごく好きで。龍太郎くんが教えてくれて、「じゃあカレーを食べに行こうか」って4人ぐらいで行ったんですよ。そしたら「いまちょっと4人は無理」と断られて(笑)。理由はわからないんですけど、その後「でもやっぱり私、あの場でカレーが食べたい」と思って、抜けて1人で行ったら「いいよ」って出してくれて。別に席はあいてたんです。でも4人はちょっと無理だった。その体験でなぜかすごく信頼できる場所だなと思ったんですよ。

――ああ。信頼できる。

田崎 それで自分にとって好きな場所だなと思っていて、ある時に、「ここで芝居をやれたらなと思う」っていう話をしたら、「いいよ」と言ってくれて。まさかそう言ってもらえると思わなくて本当びっくりしました。

 

――当日もカレーは食べられますか?

 

田崎 食べられるだろうと言ってました。でもカウンターの席がちょっとしかないから、公演中は(席の位置によって)食べられる人と食べられない人がいるかも。

――え、最中も食べていいんですか?

田崎 いいですよ。こちらとしては全然いいです。お店は公演の1時間ぐらい前から開けておいてくれるそうなので。

 

内田 お茶を飲んだりしてほしいですね。


田崎 そう、お店の人に「ワンドリンクとかしますか?」って聞いたんですよ。そしたら「それは別に決めなくていいよ。飲みたい人は飲めばいいし」って。そこも好きです。

(取材・文・撮影 中川實穗)

melomys福岡公演

『ドリームタイム』

 

【作・構成・演出】田崎小春・melomys

【出演】田崎小春

【日時】

2025年11月2日(日)19:30

2025年11月3日(月・祝)13:00/17:00

【会場】マノマ(福岡県福岡市博多区御供所町5−28)

【チケット】一般:2500円/障がい者・介助者・高校生以下:1000円

【予約】Googleフォームhttps://x.gd/B2C66

【公式X】https://x.com/melomys1

 

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