2025.10.02
観劇せん?・・・【福岡公演が気になる後編】演劇空間ロッカクナットと浅川奏瑛に聞く『ビトゥイーンズ・パーティー』
福岡と東京を拠点に活動する演劇空間ロッカクナットと、ダンサー・振付家の浅川奏瑛による『ビトゥイーンズ・パーティー』が、ふくおか県芸術文化祭オープニングフェス招聘作品として、10月4・5日に天神中央公園で上演されます。
2024年に静岡で初演された『ビトゥイーンズ・パーティー』は、「竹を用いたアートワークを観客と一緒に拡大させ続けるという観客参加型の要素」と「周囲の風景やひとの仕草を即興的に取り込んで展開していくダンスパフォーマンス」が特徴的な作品。初演が評判となり、今年、Busan Performing Arts Festival(韓国)招聘作品に選出されました。
というわけで、釡山から「今朝、帰ってきたばかり」な振付・出演の浅川奏瑛さん、セノグラファーの原良輔さん、プロデューサーの菅本千尋さんにお話をうかがいました!

▲左から原良輔さん、菅本千尋さん、浅川奏瑛さん
今回は【前・後編】でお届けします。(前編はコチラ)
◆全部を正解にしていきたい、と思うようになった
――昨日までやられていた韓国・釜山の公演はどうでしたか?
浅川 私は初演の映像をほとんど見ずに釜山に向かったんですよ。もちろんお稽古も何回かしたんですけど、やっぱり原さんのつくるアットワークがないと、私なんもないんだなっていう。
――「作品」というものがよくわかるお話です。
浅川 そのくらい対等にやっていたんだなっていうのは改めて強く思いました。身体はどんどん変わっていくし、同じ状態ではまずいられないなということも思いました。ただ、音源は変わらずに初演のものを使用したので、そこには当時私が書いた言葉や選曲した音楽がありました。そこで過去に作った自分の言葉に救われたりもして。そういう体験を経て釜山に向かえたなと思います。
――「原さんのアートワークがないと」という部分をもう少し聞きたいです。
浅川 やはり「ここにラインがある」とか「フレームされているものがある」とか、そういうことで自分の身体の状態が変わったりするなって。何もないところで「さあ、踊りの稽古をしましょう」となっても、自分が欲しいものは出てこないなと思いました。静岡の状態は静岡でしか作れなかったし、釜山では釜山でしか作れないものがある、という感じですかね。実際、釜山でもいろんなことがあって。
菅本 いろんなことがあったね(笑)。
浅川 予測しない出来事が起きたり、踊っている最中に竹の形が変わっていったりっていう奇跡的なアクシデントがたくさんあったんですけど、そういうものを(その場で)全部正解にしていく作業が楽しいなと思いました。失敗はどこにもない。それはこの作品のテーマ性も関係しているのかなと思うんですけど。「全部を正解にしていきたい」とは強く思います。
菅本 さっき浅川さんが話していた音源は、日本語のものなんですよ。だから静岡の初演では、作品の世界観は言葉でもある程度伝わったと思います。でも釜山の人たちは日本語がわからないと思うから、その辺りが葛藤としてあったのではないかなと思うけど、どうですか?
浅川 はい。言葉に頼っていた部分もそうですし、同じ日本人だから共有できるあれこれに甘えていたんだということに、釜山に行って気付きました。文化や言語が違うということに対して動きや身体で伝えられることはもっとあるんだと思ったし、それを怖がって自分は閉ざしていたということに、韓国滞在中にだんだんと気が付いていきました。

▲釜山公演の様子
――その変化はきっとパフォーマンスにも反映されると思うのですが、それによって韓国のお客さんの反応も変わったりしましたか?
浅川 変わりました。もうわかりやすいくらい変わって、すごかったです。やっぱりどうしてもこちらが探っている感じは伝わるし、距離も伝わる。最終日にやっと自分の中から変なしがらみをはずして、「同じ心を持った人間だ」ということを改めて大事に持てたら、言語や文化の違いが全く関係ない瞬間が生まれたと思います。
――釜山公演は、静岡公演とまったく同じスタイルでしたか?
菅本 いえ、静岡の時は、竹のアートワークは常設で、ダンスのパフォーマンスがない時間はお客さんと一緒に触ったり、子供たちのアスレチックになったり、迷路みたいになったり、あと他のアーティストさんも色々な形で使ってくれたりしていました。でも釜山公演ではパフォーマンスの時だけ立ててすぐ撤去するカタチだったので、アートワークのその位置付けは静岡とは違うものになりましたね。だけど韓国は(パフォーミングアーツを)見慣れてらっしゃる方が多いのかな。温かさを感じたんですよ、釜山のお客さんも、運営の皆さんも、ボランティアの皆さんも、すごく歓迎してくれて、見つめてくれる。協力的でした。それがすごくありがたくて、救われたなと思います。
原 韓国では、いろいろあってその場でスケッチを描きながら、ほぼその場でアートワークを設計したような感じでした。だから僕も事前に「こんなアートワークで、こんなパフォーマンスかな」みたいな想像があまりつかなかったんですけど、なんかおもしろかったです。文化もわからないし、現地の状況もわからないままつくり上げていくってのはおもしろかった。
菅本 釜山の最後のパフォーマンスでは、浅川さんがお客さんと手を合わせるシーンが生まれました。それは静岡でも起きてなかったことで、自分たちとしても作品の内容とリンクして、すごく感動しました。手を合わせたこの瞬間にこれまでのことが繋がっていったように感じて。
◆全部を正解にしていきたい、と思うようになった
――それを踏まえての福岡公演となります。どんなふうに思っていらっしゃいますか?
浅川 静岡では、初めて上演する作品をどういうふうに受け取ってもらえるかというひとつ壁がありました。そこを経ての釜山では、言語の壁がある中でどういう風に繋がれるだろうかという挑戦がありました。だからいま(作品としての)厚みが増しているんじゃないかなと思っています。福岡だから、日本語だから、わかるでしょ、ということにはならないし、「だからこそもっと強く手を繋げる瞬間があるんじゃないか」ということに私自身すごくワクワクしています。
――これまでのお話をうかがっていると、やるべきことが明確になった感じもあるのかなと思いましたがどうですか?
浅川 そうですね。かなり解像度が高くなるんじゃないかなと思います。具体的にどういうふうにとはちょっと言いづらいんですけど、なんか作品がひとつ強くなった。メッセージ性も生まれてくると思うし。
菅本 確実に釜山でパワーアップしたと思うので、どう観てもらえるのかなって。福岡では静岡と同じように、竹のアートワークを拡大することもできるようになっているので、そこでお客さん同士のコミュニケーションも生みながら、子供たちに遊んでもらったりして、アートワーク自体も直接楽しんでもらえると嬉しいなと思います。今回は原が来られないので、「演劇空間ロッカクナット」のメンバー碓井が設営を担当するんですけど、それによってさらに新しい要素が出てくると思います。新たなコラボレーションによってまたどんどん変わっていくのは楽しみだなと思います。
――じゃあ原さんは不参加で少し寂しいですね。
原 そうなんです(笑)。でもさっき浅川さんが言ったみたいに釜山で言語の壁は超えたけど、僕は福岡はまた違う壁がありそうな気もしているんです。静岡では「ストレンジシード」というイベントの中で上演したこともあり、いわゆる演劇好きが多く観に来てくれるような環境でした。釜山も国民的に大道芸を見慣れてる、そういう環境だったと思います。そういう意味で言うと、福岡はジャンル的にまた違う可能性があると感じているので。もちろん「演劇空間ロッカクナット」的にはホームタウンだからやりやすい部分もあるだろうけど、意外と韓国の時よりアウェイになる可能性もあるかもしれないと思ったり。
菅本 うん、確かに。言葉が通じればいいってもんでもないからね。
原 次の福岡ではその壁を越えれたらいいなと思います。
浅川 いかにいろんな方を巻き込んでいくか、そこをすごくがんばらないといけない。

▲釜山公演の様子
――最後に、これまでの公演で心に残っていることを聞かせてください。
浅川 静岡の初演の時に、小道具でメガホンから音源を流していたんですけど、曲が途中で止まってしまうというアクシデントがありました。その時はどうにかこうにか、「音が鳴らなくなった壊れたメガホン」っていう使い方をして最後までやったんですけど、個人的には「失敗した」と思っていました。でもお客さんだったり、関係者の方だったりに、「その場でしか生まれなかったことがおもしろかった」と言っていただけたんです。それが「何も失敗じゃないんだ」と思えるきっかけになって、どんな状況、どんなことがあっても、受け止めてラリーを返していこうと思えるようになりました。
菅本 釜山公演の最初の回だったと思うんですけど、ベビーカーの赤ちゃんが手を伸ばしてきてくれたんですよ。それ、すごいことだなと思って。めちゃくちゃ覚えてます。あと釜山では浅川さんが途中から客席に入っていくみたいな動きを入れていて、私たちは客席の方から見てるので、そこに浅川さんがやってきた時の色めき立ちというか、お客さんの「わー」「うわー」みたいな感触が印象的でした。私も嬉しかった。ダンスを勉強してるんだろうなっていう中高校生が、ずっと、なんかこう、(一緒に踊りに)いきたそうにしていて。心を動かしてもらえてるんだな、みたいな。ただ眺められてるのではなくて、何かが届いてるんだなってすごく思えて、よかったです。
原 静岡の時に、アートワークの中で子供たちにお絵描きをしてもらったり、一緒に竹を伸ばしていくことをやったのは印象的でした。その子たちの記憶の中でアートワークがあった瞬間が残ってくれたんじゃないかなと思ったりもして。
――福岡は天神中央公園での開催なので、子供たちもたくさん参加してほしいですね。
菅本 はい、ぜひ遊んでほしいです。
(おわり)
ふくおか県芸術文化祭オープニングフェス招聘
演劇空間ロッカクナット×浅川奏瑛
『ビトゥイーンズ・パーティー』
【振付・出演】浅川奏瑛
【セノグラファー】原良輔、碓井和佳奈
【プロデューサー】菅本千尋
【会場】 天神中央公園(福岡市中央区天神1丁目1)
【日程】2025年10月4日(土)〜10月5日(日)
【チケット】予約不要・無料(投げ銭)
【公演時間等】
◎ダンスパフォーマンスの開始時間:両日12:00/14:30(上演時間20分)
◎11:00〜17:00は「竹のアートワークの拡張」に参加できます