2025.10.02
観劇せん?・・・【作品のことがわかる前編】演劇空間ロッカクナットと浅川奏瑛に聞く『ビトゥイーンズ・パーティー』
福岡と東京を拠点に活動する演劇空間ロッカクナットと、ダンサー・振付家の浅川奏瑛による『ビトゥイーンズ・パーティー』が、ふくおか県芸術文化祭オープニングフェス招聘作品として、10月4・5日に天神中央公園で上演されます。
2024年に静岡で初演された『ビトゥイーンズ・パーティー』は、「竹を用いたアートワークを観客と一緒に拡大させ続けるという観客参加型の要素」と「周囲の風景やひとの仕草を即興的に取り込んで展開していくダンスパフォーマンス」が特徴的な作品。初演が評判となり、今年、Busan Performing Arts Festival(韓国)招聘作品に選出されました。
というわけで、釡山から「今朝、帰ってきたばかり」な振付・出演の浅川奏瑛さん、セノグラファーの原良輔さん、プロデューサーの菅本千尋さんにお話をうかがいました!

▲左から原良輔さん、浅川奏瑛さん、菅本千尋さん
今回は【前・後編】でお届けします。
◆竹で切り取る街の風景、その中で、身体でなにができるか
――そもそも『ビトゥイーンズ・パーティー』がどんなふうにして生まれた作品なのかというところからうかがいたいなと思います。「ストレンジシード静岡2024」での初演は、どんなふうに始まったのですか?
菅本 最初のきっかけは、2022年のストレンジシードで、私と原が踊っている浅川さんを観たことです。すごくいい作品でしたし、その中で浅川さんは、新体操がルーツにあるからなのか動きが……ピョンピョンピョーンみたいな。とても良かったんですよ。その後、東京で原が(編集註:菅本さんは福岡在住、原さんは東京在住)浅川さんに声をかけたんですよね?
浅川 そうです。それで私は2022 年にストレンジシードに出演してから「次に出演する時は、自分の名前で出たいな(2022年は田村興一郎氏の作品に田村氏と共に出演した)」という目標があり、原さんの活動もおもしろいなと思ったので「ストレンジシードに応募しませんか」と声をかけました。
原 なにか一緒にやろうって話になって。
浅川 会って2回目ぐらいでしたよね。
――そんな意気投合から、どんなふうにこの作品になっていったのですか?
浅川 原さんと「やろう」という話になって、菅本さんに(プロデューサーとして)外側の大きな視点で見てもらうためにジョインしてもらいました。そして、普段とは違う場所でやることや現地の方と繋がること、みたいなところから、「境界」「竹」「ダンス」というテーマで、そこと戯れたり超えたりすることができないかな、というようなことが出発点だったように思います。
――「竹」は原さんがいつも使っている素材というところからですね。
菅本 そうです。ストレンジシードの最大の特徴って、「野外のストリートシアターであること」だと思うので、その「ストリートでやること」と「身体(しんたい)」と「建築的な要素」とを、どうしたら良い空間として提示できるか、みたいな話をすごくしたなと思います。
原 僕は元々建築畑でやっていて(編集註:原さんは一級建築士でもある)、だからちょっと建築的な視点で作りたいなと思っていました。その視点の中には「なにもなかった場所に新しい風景を作る」みたいなことがテーマであるんですけど、特にストレンジシードは、ゴールデンウイークに開催されるので、会場に子供たちが来たり、テントのお店が出店されたりみたいな感じで、風景が急に立ち上がる感じがあるんです。だからそれらを“借景”として、それも一方向から見るのではなくお客さんの座る位置によっていろんな背景が見える、みたいなことができたらおもしろいなと思いました。それで「フレーミング」っていうキーワードを出して、竹で切り取られたフレームがたくさんつながったようなアートワークが重なっていって、そのフレーミングされた中に浅川さんのパフォーマンスがある。その奥には例えば木があったり、飲食店があったり、子供たちがいたり、みたいな。そういう“借景から風景を作る”みたいなことを、僕的な視点で考えながらすり合わせていったような感じでした。
――それに対して、浅川さんはどう応えていかれたんですか。
浅川 フレーミングされた中で人の動きだったり空間が変わっていく様子の切り取りが行われている。じゃあそこで“人の身体”で何ができるか。有機的に人と繋がる見えない“線”みたいなものを意識しながら、どんどん拡張していくようなイメージでやっていきました。竹のアートワークも(お客さんの手によって)どんどん拡張されていったんですけど、身体も同じように拡張していってどんどん繋がりを増やしていく、という応え方をしました。
原 僕としてもダンス作品をつくるというのが初めてでしたが、この作品は、まず振付家のパフォーマンスがあってそのために技術を用意するいうよりも、対等に進めていくカタチを取ったので、つくっていく過程でめっちゃいっぱい話しましたね。
菅本 ゼロから一緒につくり上げていくみたいなつくり方でした。元々どちらかにアイデアがあったとかではなく、対等な関係からつくり上げていく、みたいな感じがあったように思います。

▲静岡ストレンジシード2024(初演)の様子
◆誰かの日常の風景を借りて、作品をつくるからこそ
――初演は本番を迎えていかがでしたか?
浅川 現地に行かないとどうなるかわからないというワクワクがすごくありました。毎日違うお客さんが来て、アートワークもどんどん増えていって、自分も毎日同じ状態ではなくてっていう。そこをすごく意識して過ごしたなと思います。私は普段は、平常心を保とうとしたり、変わらないものを大事にしたい部分もあるんですけど、その時は、毎日毎日、いろんなアクシデントも含め、奇跡的に突然晴れたとか、そういう一瞬一瞬の出来事を「しっかりと記憶しよう」と強く思いながら踊っていたなって。
菅本 確かリハーサルをやってから3人で話したんですよね。「踊りはおもしろいんだけど、劇場の中で舞台照明とか音響を当てたほうがかっこいいような完成されたパフォーマンスだった。でもやっぱり野外でアートワークと一緒にやるからにはもうちょっと大気とか、風とか空とか、この空間の広がりみたいなものを受け入れてやったほうがおもしろいんじゃないかな」みたいな。
浅川 私は事前に踊りを決めて行ったんです。それでリハーサルをやったんですけど、そしたら「ただ踊った人」にしかならなくて。その時に、なんでここでこれをやりたいのか、原さんと菅本さんと一緒にやりたいかって考えた時に、「決めたものを持ってく」「それを踊る」というのがすごくミスマッチだと感じました。それで、本番では完全即興でやることにしました。元々即興的な部分は多くある作品なんですけど、もっと自由度を高く、余白を大きくしていった。そしたらもうちょっと自分の心が開いて、景色を見れるようになって、作品も変わっていった気がします。怖がらずに私から開いていくことで、みんなも距離が縮まるんだなっていうのは、静岡でもそうですし、昨日の釜山の公演でもすごく感じました。改めてそれがすごく大事なことなんだなって気が付きました。
――原さんはどんなふうに感じましたか?
原 僕は、自分の作品の奥にある借景の背景や空間もすべて総合して作品と捉えたい、と思ってパフォーミングアーツに関わっているんです。でもそれは劇場での舞台美術だとなかなかやりきれなかったりします。それが、ストレンジシードではできたなと思いましたね。
菅本 しかもその借景の景色が「誰かの日常」である、というのは大事な要素だと思います。釜山の時も静岡の時も、日常で当たり前に使われてる場所が舞台になっていたので、通りすがりの人がふらっと見たり、去って行ったり新しく来たりみたいな。そこに人の行き来があって、生活があった。もちろん踊りを見る作品なんだけど、なんか「作品である、作品でない」の境界もすごく緩やかに繋がって、どこからどこまでが誰の日常なのか、みたいな感覚はこの作品のおもしろいところだよなと、釜山で新たにそう思いました。
――そしてパフォーマンスを観た人たちは、その場所にまた行った時に思い出しますよね、そこにもうない風景を。
原 ああ、そうですね。そういうのがなんかいいなと思う。建築と舞台美術の違いっていう意味でも、建築は長く残るから街の風景を物理的に変えると思うんですけど、舞台美術も、例えばストレンジシードは3日間しかなかったけれども「あの場所であれを見た」と子供の記憶の中に残るかもしれない。これもある意味建築的な行為だなとか思います。
(後編につづきます)
(取材・文 中川實穗)

▲静岡ストレンジシード2024の様子
ふくおか県芸術文化祭オープニングフェス招聘
演劇空間ロッカクナット×浅川奏瑛
『ビトゥイーンズ・パーティー』
【振付・出演】浅川奏瑛
【セノグラファー】原良輔、碓井和佳奈
【プロデューサー】菅本千尋
【会場】 天神中央公園(福岡市中央区天神1丁目1)
【日程】2025年10月4日(土)〜10月5日(日)
【チケット】予約不要・無料(投げ銭)
【公演時間等】
◎ダンスパフォーマンスの開始時間:両日12:00/14:30(上演時間20分)
◎11:00〜17:00は「竹のアートワークの拡張」に参加できます