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2025.08.15

観劇せん?・・・小沢道成さんが語る『我ら宇宙の塵』

 

EPOCH MAN『我ら宇宙の塵』が、11月14日から16日までJ:COM北九州芸術劇場 小劇場で上演されます。

 

俳優 小沢道成が脚本・演出・舞台美術・企画制作を手がける演劇プロジェクト「EPOCH MAN」による『我ら宇宙の塵』は、2023年に東京で初演された作品です。パペットと映像テクノロジーの融合や、大切な人を失ったときにその悲しみとどう向き合えばいいのかという問いを描いた作品は評判を呼び、第31回読売演劇大賞「優秀作品賞」「優秀演出家賞」「最優秀女優賞」の3部門を受賞。さらに今年6月から7月にはイギリス・ロンドンのPark Theatreにて、日本スタッフと英国スタッフ・キャストによる日英共同制作として上演され、現地レビューでも多数の5つ星に輝きました。

 

EPOCH MAN初の国内ツアーとなるこの再演は、初演のオリジナルキャスト(池谷のぶえ、渡邊りょう、異儀田夏葉、ぎたろー、小沢道成)で上演されます。公演に先駆け、J:COM北九州芸術劇場にて小沢道成さんの囲み取材が行われました。そのレポートをお届けします。

 

▲小沢道成さん

 

――『我ら宇宙の塵』の物語についてお聞かせください。

 

ある日、父親を事故で亡くした少年が、その父親の行方を探しに家を飛び出します。その少年の母親は心配になって、少年の行方を探しに町に出かけます。町では、少年と母親がそれぞれいろんな人と出会っていくのですが、少年はどうやら町に住む人たちに「人は死んだらどこにいくのか」ということを問いかけているんですね。問いかけられた人たちも、戸惑いながら「あれ、人って死んだらどこにいくんだろう」ってことをもう一回考え始めます。その町の人たちもやはり大切な誰かを失った人たちだったんです。いなくなった父親を探している少年、その少年の行方を探している母親、そして大切な誰かはどこにいったんだろうと考えている町の人たちという「大切な誰かを失った、この地球に遺された人たちの物語」です。

 

――物語の構想はどこから生まれましたか?

 

僕は物語からつくり始める人ではなくて、どちらかというと視覚的な、どういったものを演劇で観たら僕が楽しめるだろうというのが最初にあります。この作品は「LEDディスプレイ」というテクノロジーを使うのですが、実は僕は舞台で使う映像があまり好きじゃないんです。なぜ舞台で映像を使うのかということをいつも考えていました。それで、どうやったら僕と同じように演劇で映像を使うのが苦手な人たちにも楽しんでもらえるだろうかと考えていたら、テクノロジー(LED)というものと、いわゆるアナログなものをミックスさせたらおもしろいんじゃないかなと、一体のパペットを使うことにしたんです。主人公とも呼べるこの少年、星太郎(しょうたろう)という名前なんですけど、この星太郎を一体のパペットにして、それを生身の人間たちが操ったり会話をしていく。これが見事におもしろい効果を発揮しました。命が宿ってないこのパペットが“想像”した時に映像が映り出すとか、きちんと「意味合い」を考えてつくっていくことによって、お客さんも、パペットだと言われているこの少年が何を考えてるんだろうって一緒に考え始める。それがどこか、「人は死んだらどこにいくんだろう」と考える思考とちょっと似ているなと思ったのが、おもしろい発見でした。

 

 

――今回満を持して再演ということですが、再演に当たっての想いをお聞かせください。

 

初演の時、オリジナルキャストの5人で「いつか再演できたらいいね」とも言っていたし、「こういうのが評価されたらいいよね」って言い合っていました。それがこうやって読売演劇大賞の優秀作品賞・優秀演出家賞・最優秀女優賞を、しかも小劇場の作品でいただいたというのはものすごいことだなと思っています。さらにロンドンで上演ができる、海外キャストでやれる、そのすごさはこの作品が持っているパワーな気がしています。ただ、再演をやるとなった時に「きっとこのメンバーでやるのは最後だね」というのは、みんなで話しています。それは直感みたいなもの。そういうこともあって、「4都市まわろう」「みんなで花火あげよう」じゃないですけども、そういった思いもあり、こうやって4都市で、しかも北九州でできることが僕はとても嬉しいです。楽しみにしています。

 

――この辺りを注目してほしい、ということはありますか?

 

この作品は、僕の中ではコミュニケーションというものの大事さというか、難しさを描いているつもりです。今はSNS社会で、みんなが自分の意見をどんどんと言うようになって、それはそれでいい社会になったと思います。そう思う反面、みんな自分の主張ばかりしている気がするなっていうのも同時に感じていて。ちゃんとその人の話を聞くことができているかというのが、僕の中では次のテーマな気がして、そういう想いも込めた作品にはなっています。

 

――初演での印象的な反応や、小沢さんの想像を超えていたことなどありますか。

 

僕の中では変わった作品だなと思ってたので、お客さんはこういう作品も好きになってくれるんだなと単純にびっくりしました。あとおもしろかった現象が、見事に半分半分で笑ってる人と泣いてる人がいた。めっちゃ泣いてる人が隣にいるのに、すごく笑ってる人がいるっていうこの現象は、やっぱり劇場でしか体験できないものなので。きっと多分、泣いてる人からすると、隣の人が笑っていたらちょっとイラってする可能性もあるんですよ。でも「いいじゃんそれで」って僕は思っちゃう。人の価値観を隣で知ることができるって素敵じゃないですか。それがこの作品は特に強かったですね。

 

――ロンドン公演を経て変わるところもありますか?

 

変えるつもりはないんです。オリジナルを尊重したい気持ちもあるので。ただ、どうしても変わってしまいますね。ロンドンでつくった時も、(初演から)たった2年しか経っていないのに、この音楽は今回は使わなくていいかなとか削ぎ落としていく部分がありました。あと、ロンドンでパペットをつくり直してもらったのですが、そのパペットの要素もいいなと思ったので、日本の再演版としてもパペットを新しくつくり直そうって思っています。

 

――どうしてつくり直そうと思ったのでしょうか。

 

ロンドンでは、日本初演のパペットが「怖い」って言われたんです。僕としては怖くないんだけど、でも(その意見を受け入れてつくり直すことで)お客さんがこのパペットに共感しやすくなる、ということは大事にしてみたいなと思いました。それで今回の日本版も、お客さんが共感しやすい印象になるようにつくり直そうと思いました。自分で好きなことやる公演だったら好きにアーティスティックなことをやればいいんですけど、やっぱりこうやってツアーで回らせていただけるってなった時に、劇場に来たことがない方にも観てほしいので、怖いっていう印象をなくしたいって思ったんですね。

 

 

――オリジナルキャストの続投は最初から決めていましたか?

 

それはもう絶対にこのキャストでやりたいっていうのはありました。やっぱりこのキャストがいたからこそ言葉も物語も生まれたので。僕一人でつくっていない作品ですから。みんなの顔を思い浮かべて、この人だったらどうなってくれるだろうって考えたからこそ生まれた戯曲なんです。まずは違う人でやるんじゃなくて、ひとつの集大成ではないですけど、やっぱりオリジナルキャストでやりたいと思いました。

 

――主演の池谷のぶえさんの印象をお聞かせください。

 

のぶえさんは「おもしろい人」という印象があるからか、お客さんは笑う準備ができている気がするんです。それはのぶえさんが今まで培ってきたもので、いいことだと思うのですが、この作品ではお客さんの印象を裏切りたいなと思いました。それで、シリアスなものをとにかく抱え込んでもらって。お客さんは自由に笑ってくださるだろうから、のぶえさんはどっぷりと大切な人を失ってしまった気持ちを想像して演じてほしいと伝えたし、ご本人もそこと真剣に向き合い続けてくださいました。のぶえさんはコメディエンヌとしての才能も素晴らしいけど、やっぱりまず人間としての部分に惚れます。演劇に向き合う姿勢とか、プライベートの過ごし方とか。それにネガティブなものとポジティブなものを両方持ってる人じゃないとできないような演技なので。素晴らしい人間だと思います。

 

――作り手として、この作品を再演したかった理由をお聞かせください。

 

なんか変わった作品なんです。LEDディスプレイを使ってるって言いながらもフルカラーは使わずにやるところとか、ちょっと贅沢にも程があるというか。小劇場でこんなの、なかなか観れないです。お金もかかることですし。そこにたくさんの出会いの縁と、演劇好きなチームのバイタリティっていうんですかね、モチベーション、そういうものによって実現している奇跡のような公演です。お客さんには、こういうものを小劇場という小さい空間で観られる贅沢さを思う存分堪能していただきたいです。

 

 

《『我ら宇宙の塵』北九州公演概要》

 

◉作・演出・美術:小沢道成

◉出演:池谷のぶえ、渡邊りょう、異儀田夏葉、ぎたろー、小沢道成

◉日程:2025年11月14日(金)~16日(日)

◉場所:J:COM北九州芸術劇場 小劇場

◉料金:A席5,500円/B席3,500円/C席1,500円

※C席は映像演出の一部が見えづらいお席です。

※鑑賞サポート付き公演アリ

◉公演HP:https://epochman.com/

◉北九州公演HP:https://q-geki.jp/events/2025/EPOCHMAN2025/

 

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