2025.08.12
観劇せん?・・・加茂慶太郎『ちょうどいい入り口』インタビュー!

加茂慶太郎『ちょうどいい入り口』が、8 月26日(火)・27日(水)に福岡・ぽんプラザホールで上演されます。
『ちょうどいい入り口』は、福岡市を拠点に国内5都市で約20の作品を発表してきた演劇作家・加茂慶太郎さんが、活動10周年の節目に放つ、“演劇の新たな進化形を探るための挑戦的な新作”。タイトルは一人芝居みたいですが、片山桃子さん、上条拳斗さん、内藤ゆきさん、味園晶さん、そして加茂さんご本人が出演する五人芝居で、構成・演出も加茂さんが手がけます。
『人形の家をたずねて』(演出・出演/2025 年 福岡)、マルレーベル『一等地』(演出・出演/2023年 福岡・大阪・横浜)、ブルーエゴナク『たしかめようのない』(出演/2024年 京都・横浜)、東京デスロック『再生 北九州Ver.』(出演/2022年 北九州)などさまざまな作品に携わっている加茂さんが、「より良い未来への”入り方”を探る、演技じゃない演劇作品」と紹介するこの作品が、どんなものになりつつあるのか。稽古場におじゃまし、直接お話をうかがいました!

▲加茂慶太郎さん
Q.どんな作品をつくろうとしていますか?
福岡で活動を始めて先日10周年を迎えたのですが、最近ついに「自分はこれがおもしろいかも」を見つけた手応えがあります。ちょうど10年の節目にぴったり間に合った……という言い方は違うかもしれませんが、人ではなくて“自分が”おもしろいものをちゃんとカタチにして出すぞという気持ちをまず込めているような作品です。
Q.稽古ではみなさんたくさん会話をされていましたが、脚本を持っていませんでしたね。
いまは絶賛クリエイションの最中なんですけど、もともと僕が脚本を事前に書くというやり方ではないんです。脚本があれば、「こういうお話になる」というのが分かったうえで、なにかに向かっていく感があるのですが、いつも僕はそういう作り方をしてなくて、それは僕が事前に決めたような言葉や動きよりも、出演者の皆さんとたくさん喋ったりするなかで見える発想や存在の仕方がとても魅力的だと思っていて、それが十分に発揮される作り方を目指しているからなんですね。なにを舞台上に載せるか、つまり創作中に出会ったみなさんの魅力のどこをピックアップするかが作品を大きく左右するので、僕のがんばりどころなんですけど、それをしっかりがんばるぞと、特に今回は決意みたいな気持ちで臨んでいるところがあるかなと思います。
Q.加茂さんの「おもしろい」ってどういうものですか?
ずばり言うと「薄味」なのかなと思います。僕が思ういま主流の演劇って、まず作家が書いた脚本があって、作品として言いたいことや見せたいものがあって、それをカタチにして舞台に乗せて、”うまく”伝わる空気を劇場全体でつくっていこう、というものだと思うのですが、僕はそういう作品を観ると、どこか答え合わせをしてるような感覚になるんです。作り手がつくりたいもの、見せたいものを観なきゃっていう気持ちにすごくなるんですね。そこに気づいて、僕がつくるものはそうじゃないもの、別の楽しみ方のあるものだといいんじゃないかと思っています。それは美術館で見るアートや言葉のないダンスみたいなイメージです。演劇って、目の前で体が動いて、言葉を使って、時間経過があって、と伝えるツールが強固だしいっぱいありますよね。それと比べると、美術館のアートやダンスは情報が欠落しているように感じるかもしれませんが、そのぶん見方の自由がある。そこと近い感覚のものをつくりたいです。その「薄味」は、もちろん内容がない、とか起伏がないってことではない。お客さんの時間体験を良質化させる刺激を含んだものをいかにつくるか、みたいなことを探ってやっている感じです。
――考えるな、感じろ、みたいな?
いえ、そこまでの強さはなくて。僕は演劇を観ていると、舞台上のストーリーとは直接関係ない、自分の考え事やモヤモヤがちょっとスッキリすることがあるんです。それがすごく素敵だなと思っていて。自分は自分の暮らしがあって、その中で考えていることがあって、そこにふと演劇がマッチして、インスピレーションみたいなのが生まれる。それはいい出会いですよね。そういう、客席で過ごすお客さんのなにかの“足し”というか、きっかけみたいな時間になることを目指したいですね。
Q.俳優さんはどんなことをされるのですか?
なるべく芝居をしないでもらおうと思っています。演劇なのに(笑)。役名があって台詞を喋って、というのではなくて、ほとんど本人として存在しながら、いろいろ動作をしてもらうというか。動きを決めて……だからやることはダンスに近いのかな。僕はダンスでも、「これを表現してます」みたいなものより、「存在してます、動いてます」みたいなもののほうが好きだったりするんですけど、そこでなにをおもしろがれるかっていう部分。そこを(演劇で)実現するためには、舞台とお客さんの間に“文脈”が必要になると思います。例えば、動き、なんでもいいんですけど、3人の出演者が反復で屈伸をしているとして、残る2人の出演者が「今日バイトでこんな話があってさ」みたいな話をしていたら、自然とその動きは労働と紐付けて想像されるんじゃないか。そういう、なにかを想起させるものは絶対に発生させないといけないかなと思います。お客さんはいろんな生活から劇場であるぽんプラザホールに来られるわけですから、ぽんプラザホールから地続きで始めて、どこまでヘンテコにいけるか。そこはがんばりたいところです。ってこの説明だと不安な気持ちにさせるかもしれないんですけど、お客さんには安心して来てほしいです。ほんとに。
――試されるような作品、ではないってことですよね。
試さない。試さないですよ! つくり手側に正解がないから試しようがないんです。それが逆に鬱陶しく感じる人も多分いるんじゃないかとは思いますけどね。自由に観てよと言われると、なにを見たらいいかわかんないって……。でも安全を保証したい気はあります。誰がどんな状態で観ても楽しめる、みたいなことはかなり大切にしているので。事前情報なしでも、行ったらなんか楽しめる。最近は演劇を普段されてる人とか演劇を観慣れている人よりも、初めて観たような人からのほうが好評をいただくことが多いです。なにかを教えるとか啓蒙するとかではなくて、「今を生きるあなたに、もしかしたら演劇が効くかもよ」って言いたいです。そういう精神でお越しいただけると、楽しいのかもしれない。
Q.キャストの皆さんの印象を聞かせてください。
みなさん“おもしろがり力(りょく)”のある方々だなっていうのは、まずすごく思うことです。「加茂さんがやりたいことをやりましょうよ」とかではない。だからすごく信頼できる方々と一緒につくれているなという嬉しさを日々感じています。嬉しいです。あと、4人が4人とも全然違う人ですね。四者四様で、みなさんそれぞれ自分の感覚をブレさせずにその場にいてくださる。だからその感覚をすり合わせながら進んでいるような感じです。稽古場にはもう1人、演出助手として河村映楽さんに時々入ってもらっているんですけど、映楽さんも僕の代わりに出てよって言いたいぐらい魅力的な方です。基本的にはこの出演者5人+助手1人でつくっています。
Q.この公演をオススメしたいタイプは?
結局自分が観たいものをつくるので、僕みたいなタイプになるのかな。旅に出て普段暮らしてる場所じゃない土地にしばらく身を置くのが好きとか、自分ってこういう時にこういうことを思う人間なんだと発見するのが好きとか。……最近は乃木坂46にハマってますけど。
――乃木坂46ファンにもオススメしたい。
(笑)。乃木坂、なんかいいんですよ。推しがいるというよりはグループ全体が好きで。乃木坂のファンにもぜひ来ていただきたいです!
【福岡で演劇をやる理由】
福岡で始めたから、というのがまずひとつ大きいです。福岡で始めて、福岡のいろんな大人たちに可愛がってもらって、恩返しがまだしきれてないという気持ちもあります。
一方で、自分がやろうとしてる作品は前衛なので、福岡ではちょっと厳しいだろうという感覚も強く持ってはいるんです。京都とか横浜とかのほうが(文化に)フィットするかなと思う。だけど僕、福岡ってブームがちゃんとくる街だと思っているんですよ。流行がちゃんと流行になる街だから、ここで演劇を流行にできるんじゃないかみたいな期待を捨てきれずにいる。この土地で大流行みたいなものを起こせたら、その先でやっていくのはめちゃくちゃ楽しいだろうなっていう、夢みたいなものを持っています。
いま悔しいのは、東京とかで活動してる人が福岡に来る理由がないことです。福岡に演劇しに来るってちょっと起こりにくいし、参加したい演劇祭やコンペが定期開催されているわけでもない。演劇が盛り上がっているわけじゃないから、演劇の居場所みたいなものもないですし。そういう孤独感は日々感じながらやっています。だから僕は、その人たちが福岡に来る理由になれたらいいなとか、そういう場所を作れたらいいなみたいな気持ちも持っています。
福岡で10年やってきて、自分が作品をつくるということと、それが街にどう影響するか、還元するか、みたいなことをセットで考えるようになってきました。自分の作品で今このローカルにどう関係するか、それができる可能性を広げられるか、みたいなことに関心が湧いています。そこに人生の懸け甲斐みたいなことも感じます。
でもやっぱり一番大きいのは、この土地で夢を見ているってことかな。かっこいいっぽいこと言っちゃいましたけど(笑)。そういうことが大きいかなと思います。
(取材・文・撮影/中川實穗)
《「ちょうどいい入り口」公演概要》
◉構成・演出:加茂慶太郎
◉出演:片山桃子、上条拳斗、内藤ゆき、味園晶、加茂慶太郎
◉日程:2025 年 8 月26日(火) 20:00〜、27日(水) 13:00〜/18:30〜 ※上演時間約75分+終演後Q&A約20分
◉場所: ぽんプラザホール(福岡市博多区祇園町8−3 4F)
◉料金: 一般チケット ¥2,000 学生&U22割 ¥1,000 応援チケット ¥4,000(特典あり)
◉チケットお取り扱い:teket >> https://teket.jp/13342/51597
◉公式HP:https://sites.google.com/view/kamokeitaro/just-right-entering