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2020.07.28

月刊コマ送り15「夜」

 

静かで穏やかな、ぬるい夜だった。

もう終電もない帰り道、大濠公園をぐるっと半周ほど歩いて通り抜けてから自宅アパートへ帰る途中に、領事館の前を通る。公園と領事館の間には、車通りのあまり多くない道があり、そこに押しボタン式の横断歩道がある。

領事館前の細い道には昼も夜も警察官が立っていて、誰かが通ると必ず挨拶をしてくれる。いつのまにか私も自然に挨拶をするようになり、最近はいかに相手より早く声をかけるか、横断歩道を渡る段階からタイミングを見計っている。

 

いつものように「おつかれさまです」と声をかけようとしたときのことだ。

深夜の住宅地に似合わない、鋭い声が聞こえた。足が止まる。ほんの少し先の方を黒い影が闇を切り裂くような速さで駆け抜けていった。

思わず立ち止まったままその影の行方を目で追う。警察官は音のした方に首から上だけを向けて、まぁいつものことだというような表情をしている。

 

 

何事もなかったように時間が動き出す。私は足を前に進め、目の前の警察官に「おつかれさまです」と声をかける。「おつかれさまです」と声が返ってくる。

そのまま警察官の前を通り過ぎ、領事館の前を通り過ぎ、アパートの方向へと角を曲がったとき、夜の色をした毛並みがしっぽを揺らしながら領事館にむかってゆっくりと歩いていく姿を見た。

 

 

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