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2020.04.15

月刊コマ送り12「真っ白」

 

ほんの少し前、まだ会社にも打合せにも取材にもどんどん繰り出していたときの話。

 

その日は朝から取材の予定だった。
自転車か公共交通機関しか足を持たない私は、大先輩の車に同乗させていただくことになっていた。前日に待ち合わせの時間と場所を確認する。

朝、会社に自転車を置いて、待ち合わせ場所までは歩いて行くことにした。
公園の横を通り、桜はまだまだみたいだなと思いながら大通りへ出る。横断歩道の信号はちょうど赤に変わったところだった。

待ち合わせ場所までの道のりは簡単だった。大通りをずーっと歩いて行って、ローソンの手前を右にまがる。すこしだけ進んでさらに左にまがる。

とはいえ一応。念のため。信号待ちで時間も持て余していることだし、もう一度きちんと場所を確認しておこうと、スマホでGoogle Mapを開いた。そのときだった。

目の前にふわっと黒い影が落ちた。
思わず「うわっ」と声をあげた次の瞬間、左手で持っていたスマホの画面が、真っ白になっていた。視線がスマホに釘付けになる。

ハッとして見上げると、街路樹の枝の先にカラスが一羽。視線を落とし、もう一度スマホを見る。新鮮な真っ白の糞が、カメラもスピーカーもホームボタンも綺麗に避けた状態で液晶を覆っている。

信号が青に変わる。
足を踏み出しながらリュックのポケットからティッシュを取り出す。1枚目、きれいに真っ白を拭き取る。とてもコントロールがよかったらしく、真っ白はちょうど中央から広がっていた。2枚目、携帯用のテピカジェルを贅沢に出してこれでもかというくらいに拭きあげる。なかなか使う機会がなくリュックの中に眠っていたテピカジェルにこれほど感謝したことはない。

待ち合わせ場所につき、車に乗せてもらう。朝から夕方まで取材をして、一旦会社に戻る。社内での仕事を済ませて帰宅。脱いだコートをよくみると裾がほんの少しだけ白かった。

 

 

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